クローン病の食事制限


●☆ クローン病の食事制限とQoL


栄養療法が治療の基本となる病気というのがあります。よく知られているのは糖尿病や高血圧でしょうか。クローン病の場合も基本となる治療は栄養療法です。


例えば、糖尿病の場合は、日々の食事のカロリーを低く抑えるという食事制限です。高血圧の場合は塩分の制限、高脂血症の場合はコレステロールの制限、痛風の場合はプリン体を含む食品の制限ということになります。


ではクローン病の場合は?というと、実は完全に一定というわけでもなく広い幅を持った制限となります。厳しくは“絶食”から緩くは“低脂肪/低残渣/低刺激/高エネルギー”まで幅広いのです。


クローン病というのは、よくなったり悪くなったりを繰り返す病気です。よくなっている時期を“緩解期(寛解期)”と呼び、悪くなっている時期を“活動期・再燃期”と呼びます。根本的な原因が分かっていない上にこのように再燃を繰り返すことから、“完治”を宣言されることはありません。とはいえ、何年も緩解期のまま普通に暮らしている人もたくさんいるようですけどね。


炎症のひどい活動期の場合、絶食して腸を安静にする必要が出てきます。24時間ずっと中心静脈から栄養点滴を受けます(ほとんどの場合は入院です)。


徐々によくなってくると、今度は経腸栄養剤を用います。これは、各種栄養素をあらかじめ加水分解した状態の栄養剤で、胃腸で消化する必要がなく吸収だけすればいいようになっているものです。これを飲んだり、あるいはチューブで胃まで直接流し込んだりします。


さらによくなってくると、今度は制限食となります。クローン病にとって一番よくないのは脂肪分だと言われています。他にも食物繊維や刺激物など多くの食品が制限されます。逆に、糖尿病や高血圧と違いカロリーや食塩については制限されません(消化吸収が悪くなっていることからむしろカロリーは十分必要になります)。タンパク質はクローン病によくないことも多いのですが(状態と個人差がある)、回復のためには摂取しなければいけないという難しい状況となります。


食物繊維を制限すると言うと驚く人が多いですね。普通の人にとっては、十分な量の繊維を摂ることは健康のために大事なことですから。クローン病の場合、潰瘍で腸が狭くなった部分に詰まりやすいだとか、腸の運動が活発になると刺激になるなどの理由から、糞便が少なくなるほうがよいそうです。糞便として残るものが少ないという意味で“低残渣食”と言います。


低脂肪、低残渣、低刺激ということで、いろんな食品が制限されます。しかも個別の食品については結構「個人差」があります。乳製品なんかは特に顕著ですね。食べても平気な人もいれば、あっという間にひどくなる人もいます。食品ごとの細かい制限が知りたい場合は、専門書がたくさん出ていますのでそちらをご覧下さい(オススメ本としてこのブログでも紹介しているものもあります)。


大体、上記3つの食事制限を、途中併用しながらゆっくりと移行させて日常生活に戻れるようにしていきます。再燃を防ぐために制限食を続けるのはもちろん、場合によってはほとんど経腸栄養剤で過ごしている方もいるようです。


疫学的調査の結果から、クローン病では“一日の脂肪分摂取が30gを超えると再燃率が高くなる”というデータがあるそうです。なので、これが基本的な制限となるのですが、実のところ30g制限というのはかなり厳しいものです。(※最近、このデータをどう捉えるべきか考え直すようになりました。別途記事にする予定/2008.2追記)


入院した場合の病院食がありますよね?。栄養士さんに聞いた話では、普通に入院した人の病院食で脂肪分60g制限ほどだそうです(私が入院した病院の場合)。あれでさえ味気ないものだというのを考えれば30gというのは結構な制限です(まあ、味気ないのは塩分ひかえめのせいでもあるのですが…)。工夫しなければつまらない食事になってしまいがちです。


食事制限を含め、病気からくる様々な生活の制限を考えるときに「QoL(Quality of Life):生活の質」という言葉がよく言われます。いかに治療のためとはいえ、生活することに非常な苦痛が伴なってしまうと肉体的にも精神的にもよくありません。食事制限のストレスが病気を悪化させてしまえば元も子もありませんから。


特に“食べること”は、生きていく上での楽しみとしては比重が高いですから、無理をしすぎるのもいけません。30g制限はあくまでも基準あるいは目標として、深刻になりすぎず大らかに捉えることも大事でしょう。また、その制限の中で工夫しておいしい食事を作り出す、というのも大事なことだと思いますし、実際に食べてみて問題がないなら制限をゆるめてもいいかもしれません(自分の体のことですから)。ただ経験上「食べてみて加減する」のが難しい病気なのも事実です。体がすぐ拒絶するものはともかく、長期のサイクルで悪くなるかどうかの見極めは不可能に近いです(しかも食べもの以外の原因でも悪くなりますから)。


このブログは、一人暮らしのクローン病持ちが「制限の中でいかにおいしく料理するか?」をテーマに頑張ってみる記録のようなものです。同じ病気を持つ人や、他に食事制限が必要な人、はたまたダイエットに興味のある人まで、少しでもお役に立つこともあるかと思い、日々つらつらと書かせていただいております。よろしくです。


(2005.12.7 文責:しんご)


(※この文章はクローン病の解説が目的ではないため、食事制限に関してのみを書きました。症状、治療法その他については専門書をご覧下さい。)


【追記】
上記文章を書いて2年が経った今現在、割と新しく出版されたクローン病の本では少し内容が変わってきている点もあります。1つは食物繊維の制限について。


最近の本では、食物繊維は摂ったほうがよい、特に緩解期には摂るべきだとしてるものが多いような気がします。その時に出てくるのが、水溶性食物繊維と非水溶性食物繊維という言葉で、水溶性のものは特によいといったことです。


もう1つは脂肪の制限について。脂肪を制限するのは変わっていないのですが、脂肪の中でも「オメガ3系」とか「n3系」とか呼ばれる脂肪酸、これは積極的に摂るべきだとしているものが増えてる気がします(以前は「摂ってもよい」という表現だったような…)。具体的な油脂としては、魚油(青魚)やシソ油(エゴマ油)、亜麻仁油などです。


(2009.2.22 文責:しんご)